ヨーロッパ中世ルネサンス研究所第一回研究会 講演 


「ルネサンス世界―その意義と我々」
根占献一(学習院女子大)




昨年11月7日、早稲田大学プロジェクト研究所の一機関「ヨーロッパ中世・ルネサンス研究所」の開所講演「ルネサンス世界――その意義と我々」にあたり、私は以下の順序で話をした。



はじめに
1.未知なる文化との出会い
2.鈴木成高先生とルネサンス
3.村岡晢先生と学問的教養
4.ヨーロッパ思想と近世日本――第一質料をめぐって



おわりに



学生時代から始まる、この取りとめもない小話(しょうわ)を、当日、巧みに纏められたのは、この講演を提案された、同研究所所長の甚野尚志早稲田大学文学学術院教授であった。思い出のなかで美術の分野にも言及したため、同院教授で同研究所の不可欠な構成メンバー益田朋幸教授は、アーウィン・パノフスキーの翻訳に関して忘れ難い発言をされた。
この研究所に託する甚野先生の思いはその学風と酷似している。遠大な見取り図を描きながら、堅い地盤固めを怠らない点においてである。現在、この研究所主催の研究発表はすでに三度実施されているが、その都度、各研究者への先生のコメントには常にそのことが生き生きと感じられる。私の講演に対してもそうであった。



ここではその一部、最後の「おわりに」の部分のみを転載することとした。ただ、その前に簡略な補足を付けて要旨とし、このときの講演の全体がいつか活字化される日が来ることを願っている。



(一)では私のヨーロッパ研究の原点となった諸事に触れた。(二)では鈴木先生のルネサンス観などを紹介する一方、中世との関連に言及、(三)では村岡先生との思い出を述べながら、プラトン主義(霊魂不滅論)の題目に及んだ。(四)ではアリストテレス主義(スコラ学)とわれわれとの出会い、つまり南蛮文化(イエズス会の活動)と広がりに注意を喚起した。この最後の観点は、幸い、拙稿「パドヴァ大学の伝統と霊魂不滅の問題――16世紀世界における宗教と哲学思想」(『中近世ヨーロッパのキリスト教と民衆宗教』所収、17−23頁。平成19〜21年度科学研究費補助金[基盤研究B]研究成果報告書、研究代表者甚野尚志、平成22年3月)として、一部公表することができた。(以上は2010年5月1日記す)




おわりに

アリストテレス主義であれ、プラトン主義であれ、それぞれのルネサンス的論題が16世紀の日本でも取り上げられているわけです。それ故に、このルネサンスは中世の他のルネサンスと違い、ヨーロッパだけの問題でなく、私たちに身近な文化思想運動と言いたいのです。他の、中世に繰り返されたルネサンスとは異なるのです。講演の題目を「ルネサンス世界――その意義と我々」としたのも、このためです。
だが、アリストテレス主義も、プラトン主義も、イタリア・ルネサンスだけの思想領域にあるわけでなく、中世ヨーロッパを通じた思想の流れ、伝統です。この継続の理解なくして、15、6世紀における古代の思想的伝統を理解できるものではありません。そして古代からのこの伝統は、私がここでお話した以上の豊かな思想を持っていることは言うまでもありません。政治の領域を考えれば、すぐに分かることです。「ヨーロッパ中世・ルネサンス研究所」は学際的な共同研究を謳われています。ヨーロッパ文化の究明のためにこの研究所が実りある発展を遂げられるよう祈念して、講演の結びの言葉と致します。ご清聴ありがとうございました。


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